[コラム] なぜ今、マレーシアの半導体産業が再評価されるのか。ASEAN再編の中心地としての現在地

✅ ざっくり言うと

  • 🇲🇾 マレーシアは、ASEANの半導体・E&E(電気・電子、Electrical & Electronics)分野で依然として中核的な地位にあると考えられます。
  • 🏭 強みは後工程の集積だけではなく、IC設計や先端化へ向かう産業政策の明確さにもあると思われます。
  • 🪤 マレーシアは1996年に上位中所得国となった後に長く伸び悩みましたが、半導体を取り込むことで再び成長軌道に乗りつつあります。
  • 📈 「成熟した拠点」ではなく、「中所得国のワナを抜けようとする再上昇局面の拠点」として見ることが重要だと考えられます。
目次

はじめに

今回は、ASEANの産業地図が変わりつつある中で、なぜ今あらためてマレーシアの半導体産業が注目されているのかについて説明していきます。

東南アジアではベトナムやフィリピンの存在感が高まっています。
その一方で、マレーシアのように長い産業蓄積を持つ国の価値も、むしろ見直されつつあるように思われます。
サプライチェーン再編の局面では、新設の拠点だけでなく、すでに一定の集積、人材、インフラ、制度運用の実績を持つ国の強みが、あらためて効いてくるためです。

本稿では、この「再評価」を、単なる各国紹介ではなく、東南アジア全体が直面する一つの共通課題の中に置いて考えてみたいと思います。

「中所得国のワナ」という共通の問い

ASEANの成長序列を読むうえで、いま一つの補助線になるのが「中所得国のワナ」という論点です。

これは、ある程度の所得水準に達した国が、産業の高度化に手間取り、そこから先の成長が伸び悩む現象を指します。
World Bankは2026年7月に各国・地域の所得区分を更新し、2025年の1人当たり国民総所得(GNI、Gross National Income)が4,636〜1万4,375ドルの国を「上位中所得国」と定義しました(出典:日本経済新聞)。
World Bank自身も、この分類は前暦年の1人当たりGNIに基づくもので、2027年6月末までの参照基準になると説明しています(出典:World Bank)。
World Bankのバレラ上席エコノミストは、一定の所得レベルに達すると成長の維持には多くの努力が必要だと指摘し、必要な施策としてインフラ整備、規制改革、生産性を高める人材教育を挙げています(出典:日本経済新聞)。
この「ワナ」を、半導体という高付加価値産業でどう抜けるか。

それが、マレーシア、ベトナム、フィリピンを貫く共通の問いだと考えられます。

マレーシアは、なぜ再び注目されるのか

マレーシアの強みを考えるうえで、まず押さえておきたい点があります。

同国は「これから工場を作る国」ではなく、すでに製造業と関連サービスの厚い基盤を持つ国だという点です。
NIMP 2030(新産業マスタープラン2030、New Industrial Master Plan 2030)では、製造業は国内総生産の約24%を占め、輸出全体の約80%を担い、雇用の約17%を支えると整理されています(出典:NIMP 2030)。
これは、製造業が周辺的な産業ではなく、国家の経済構造そのものに深く組み込まれていることを示しています。
そして、この基盤は一朝一夕にできたものではありません。

マレーシアは1996年に上位中所得国となりましたが、その後は長らく成長が伸び悩んでいました(出典:日本経済新聞)。
それが近年、半導体産業を取り込むことで再び成長軌道に乗り、直近では電機や半導体の輸出拡大を背景に、2026年4〜6月期の国内総生産の伸び率が6%に加速したと報じられています(出典:日本経済新聞)。

つまりマレーシアは、まさに「ワナ」を半導体で抜けつつある実例として読むことができます。

マレーシアの強みは、後工程の集積だけではない

半導体分野でのマレーシアの存在感は、すでにかなり大きいものがあります。

MIDA(マレーシア投資開発庁、Malaysian Investment Development Authority)掲載の記事では、マレーシアは世界第6位の半導体輸出国であり、半導体のパッケージング、組立、テスト分野で世界市場の13%を占めると紹介されています(出典:MIDA)。
さらに、E&Eと半導体分野は2023年の輸出の40%、金額にしてRM575 billion(約5,750億リンギット)を担ったとされ、E&E分野は国内総生産の5.8%を占めたと整理されています(出典:MIDA)。

重要なのは、ここで話が「後工程に強い」で終わっていないことです。
NIMP 2030のミッションベース・プロジェクトでは、EV・再生可能エネルギー・AI向けのグローバルIC設計チャンピオンの創出、先端ウェハ製造の新規誘致、特殊化学分野の深化、先端材料分野の育成が掲げられています(出典:NIMP 2030)。
これは、既存の集積を土台にしながら、より高い技術密度と付加価値を持つ領域へ上がっていこうとする戦略だと理解できます。
日本経済新聞の記事でも、マレーシアは集積度の高いAI半導体などを組み立てる「先端パッケージング」の推進や、設計・開発を国内でできる態勢の整備を進めているとされ、2030年までの高所得国入りが視野に入ると報じられています(出典:日本経済新聞)。

マレーシアは「守りの国」ではなく「再上昇局面の国」である

ASEANの議論では、ベトナムやフィリピンの成長が話題になりやすく、マレーシアは「すでに成熟した国」として相対的に静かに見えることがあります。
しかし、私はこの見方はやや古いのではないかと考えています。

NIMP 2030は、マレーシアの価値として、世界の主要航路の中間にある戦略的立地、高い教育水準と英語人材、法の支配、インフラの質を明示しています(出典:NIMP 2030)。
加えてMIDA掲載記事は、マレーシアにはend-to-end supply chain、skilled multilingual workforce、world-class infrastructureがあり、さらにneutral and open economy policyが「China Plus One」戦略の受け皿として機能しうると述べています(出典:MIDA)。

こうした条件を踏まえると、マレーシアは単に成熟しているのではなく、高付加価値機能をより多く引き受ける準備が整った国として見る方が自然だと考えられます。
もっとも、この再上昇が約束されているわけではありません。

同じアジアではインドも半導体産業の誘致に本腰を入れ、多額の補助金を投じて前工程を含む工場の設置を目指しており、高度な製造業をめぐる国家間の競争は激しくなっています(出典:日本経済新聞)。
だからこそ、マレーシアがどの領域に軸足を置くかという選択が、これまで以上に重要になると考えられます。

ASEAN再編の中で、マレーシアはどのポジションを取るのか

今後のASEANでは、各国が同じ勝ち方をするわけではないはずです。
ベトナムは追い上げの勢いで存在感を高め、フィリピンは製造とサービスの接続で独自色を出そうとしています。

他方でマレーシアは、すでに持つ集積を土台として、より上流・高付加価値側へ移ることが期待される国だと考えられます。
この意味でマレーシアは、量の拡大だけでなく、設計、先端製造、関連素材、装置、そしてそれらを支える高度な産業サービスまで含め、自国のポジションを再定義していく局面にあるように見えます(出典:NIMP 2030)。

次回は、その追い上げの筆頭であるベトナムを取り上げ、マレーシアとの競争と補完の関係を考えます。

まとめ

マレーシアの半導体産業は、長く存在してきたからこそ、かえって新鮮味がないように見えることがあります。

しかし実際には、その蓄積こそが、いまのサプライチェーン再編局面で大きな意味を持っていると考えられます。

製造業は国内総生産の約24%、輸出の約80%、雇用の約17%を支える基幹分野であり、半導体・E&Eはその中心の一つです(出典:NIMP 2030)。

さらに、半導体では世界第6位の輸出国で、後工程分野で世界市場の13%という存在感を持ちながら、政策面ではIC設計、先端ウェハ製造、先端材料へと視線を上げています(出典:MIDANIMP 2030)。

1996年に上位中所得国となってからの長い停滞を、半導体で抜けつつあるという文脈を踏まえれば、マレーシアは「守りの拠点」ではなく、「中所得国のワナを抜ける再上昇局面の中核拠点」として見るのが自然ではないかと思われます。

SNSへのシェアはこちら
  • URLをコピーしました!
目次