[コラム] ベトナムはASEANの成長序列を変えるのか。半導体と人材育成で進む産業昇格

✅ ざっくり言うと

  • 🇻🇳 ベトナムの強みは、もはや「低コスト」だけではないと考えられます。
  • 🎓 半導体人材の育成と設計・製造への志向が、産業昇格の中身を変えつつあるように見えます。
  • 📊 World Bankの2026〜2027年分類では、ベトナムは上位中所得国へ移行した国の一つです。
  • ⚖️ マレーシアにとっては競争相手であると同時に、地域分業を再設計するうえで無視できない存在です。
目次

はじめに

今回は、前回「なぜ今、マレーシアの半導体産業が再評価されるのか。ASEAN再編の中心地としての現在地」で取り上げたマレーシアにとって最も意識すべき存在の一つであるベトナムについて説明していきます。

マレーシアが「蓄積を土台に高度化する国」だとすれば、ベトナムは「勢いを持って産業の階段を上がろうとしている国」と整理できるかもしれません。
ここ数年のベトナムを見ていると、単に安価な労働力を提供する生産拠点としてではなく、より高度な製造業と技術人材を備えた国へ進もうとする意志が強まっているように見えます。

前回述べた「中所得国のワナ」という補助線を当てると、ベトナムはいままさに、その入口で高付加価値化に挑もうとしている国だと言えます。

ベトナムは、なぜここまで存在感を高めているのか

まず注目すべきは、ベトナムが国際的な所得区分でも一つ上の段階に進んだことです。

World Bankの2026〜2027年分類では、Jordan、Micronesia、the Philippines、Sri Lanka、Viet Namの5か国が、lower-middle incomeからupper-middle incomeへ移行したと整理されています(出典:World Bank)。
World Bank自身も、この分類は前暦年の1人当たりGNI(国民総所得、Gross National Income)に基づくもので、2027年6月末までの参照基準になると説明しています(出典:World Bank)。

もちろん、所得区分の変更だけで一国の実力を語ることはできません。
World Bankは、しきい値が毎年インフレや為替変動の影響を受ける点、2025年データは推計であり改定されうる点も明記しており、数字の扱いには一定の留保が必要です(出典:World Bank)。
それでも、ベトナムがASEANの中で無視できない成長国になっていることを示す一つの材料ではあります。

その背景には、輸出主導の成長戦略があります。
ベトナムは世界各国・地域と貿易協定を締結し、外資を誘致して電子部品や電気機器の生産拠点を集積することで、国民所得を押し上げてきたと報じられています(出典:日本経済新聞)。

ベトナムの半導体戦略は、単なる工場誘致では終わらない

今回の日本経済新聞の記事では、韓国LGイノテックが2026年6月、ベトナムに半導体基板の工場を設けると発表し、投資額は約10億ドル(1,600億円)を見込むとされています(出典:日本経済新聞)。
また、韓国サムスン電子や米インテルについても、ベトナムで半導体関連の拠点を新設したり、能力を増強したりすると報じられています(出典:日本経済新聞)。

外資だけではありません。
国内でも、国防省系のベトテルやIT最大手のFPTが半導体生産に意欲を示していると紹介されています(出典:日本経済新聞)。

ここで重要なのは、ベトナムが多くの人手を必要とする後工程だけでなく、回路形成などの前工程や設計・開発まで呼び込もうとしていると紹介されている点です(出典:日本経済新聞)。

もしこの方向性が定着すれば、ベトナムは「安く組み立てる国」から、「より多くの付加価値を域内で取り込む国」へと変わっていく可能性があります。

人材育成こそ、ベトナムの本気度を示している

ベトナムの競争力を考えるとき、設備や工場の話以上に、人材政策が重要だと感じます。

日本経済新聞の記事によれば、ベトナム政府は2030年までに5万人の半導体人材を育成する方針を示しており、ハノイ工科大学などで半導体教育の充実を進めています(出典:日本経済新聞)。
さらに、ファム・ミン・チン首相(当時)は、2025年8月の会議で、遅くとも2027年までに半導体の設計・製造・試験を行えるようにすべきだと述べたと報じられています(出典:日本経済新聞)。

こうした方針がすべて予定通り進むとは限りません。
それでも、ベトナムが狙っているのが単純な量的拡大ではなく、設計・製造・試験を含む産業能力の立ち上げであることは読み取れます。

これは、前回触れたバレラ上席エコノミストの指摘、すなわち成長維持には人材教育が欠かせないという論点とも重なります。

「40年に高所得国」という試算をどう読むか

ベトナムの将来像については、印象的な試算も紹介されています。
日本経済新聞によれば、タイの地元紙ネーションの試算では、過去10年の平均と同じペースで成長が続いた場合、ベトナムの1人当たりGNIは2037年にタイを抜き、2040年には高所得国になるとされています(出典:日本経済新聞)。

ここで対照的なのがタイです。
タイは2011年に上位中所得国へ移行して以降、中所得国から抜け出すメドが立っていません(出典:日本経済新聞)。
半導体やデジタルなど先端産業の育成が遅れたことに加え、周辺国より早く高齢化が進み、経済成長のエンジンが乏しいためだと報じられています(出典:日本経済新聞)。

つまり、同じ上位中所得国でも、先端産業を取り込めるかどうかで、その先の景色は大きく変わりうるということです。
ベトナムの試算は、あくまで一定の前提を置いた場合の姿にすぎません。
それでも、タイという先例と並べて見ると、ベトナムがいま半導体と人材にこだわる理由が理解しやすくなります。

マレーシアから見たベトナムの意味

マレーシア法人の視点でベトナムを見るとき、重要なのは「追い上げられている」という不安だけを持つことではありません。
どこで競争し、どこで補完しうるのかを冷静に見ることだと思います。
ベトナムは、勢いと新規投資の吸引力で強みを発揮しやすい国です。
一方で、マレーシアは長い産業蓄積、英語環境、既存のE&E(電気・電子、Electrical & Electronics)・半導体エコシステム、そして高度化に向けた政策の明確さという強みを持ちます(出典:MIDANIMP 2030)。
このため、両国はすべての領域で正面衝突するわけではなく、競争と分業が同時に進む可能性があると考えられます。

まとめ

ベトナムの台頭を、「人件費の安い国が伸びている」とだけ理解すると、本質を見誤るように思われます。

実際には、ベトナムは外資を呼び込みながら、前工程、設計・開発、人材育成へと視野を広げ、産業の階段を上がろうとしています。
World Bankの2026〜2027年分類でも、ベトナムは上位中所得国へ移行した国の一つに挙げられています(出典:World Bank)。

マレーシアから見れば、ベトナムは脅威であると同時に、ASEANの新しい役割分担を考えるうえで欠かせない存在です。
だからこそ、次に見るべきなのは、もう一つ別のルートで存在感を高めつつあるフィリピンではないかと思います。

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