[コラム] マレーシアCRESSのSACが14センへ – 企業のグリーン電力調達で確認すべき条件と契約リスク

✅ ざっくり言うと
- ⚡ マレーシア政府は、CRESSの「ファーム供給」に適用するシステムアクセスチャージ(SAC)を、1kWh当たり14センとするアクセラレーションパッケージを発表しました。
- 📅 適用を受けるプロジェクトは、2028年12月31日までに商用運転を開始する必要があり、政府発表では期限延長の申請を考慮しないとされています。
- 🔋 14センの対象は「太陽光+蓄電池」と一律に表現するより、まずファーム供給の要件を満たすかで判断すべきです。具体的な技術要件は今後も精緻化されます。
- 📝 企業側は、料金だけでなく、商用運転の遅延、SAC優遇の喪失、蓄電池の性能、複数契約、再エネ属性の移転まで含めて確認する必要があります。
はじめに
今回は、マレーシア政府が2026年9月18日に発表したCorporate Renewable Energy Supply Scheme(企業向け再生可能エネルギー供給制度、CRESS)の強化策と、企業が実務上確認すべき事項について説明していきます。
CRESSは、再生可能エネルギー発電事業者と企業需要家が、既存の電力系統を利用してグリーン電力を直接取引するための制度です。
マレーシアで製造拠点及びデータセンターを運営する企業にとっては、脱炭素目標及び再エネ調達を具体化する選択肢の一つと考えられます。
今回注目されたのは、System Access Charge(システムアクセスチャージ、SAC)の引下げです。
もっとも、「託送料金が下がったので、企業の電力コストがそのまま下がる」と理解するのは早計です。
対象となる供給形態、蓄電池等のコスト、契約上の価格転嫁、2028年末の期限、今後公表される詳細要件を併せて確認する必要があります。
私自身、マレーシアの電力調達制度を検討するときは、制度名及び公表された単価だけでなく、「誰が誰に何を支払い、どの契約が途切れると電力・環境価値・価格の前提が崩れるのか」を図にすることが重要だと考えています。
本稿でも、政府発表の内容と、まだ決まっていない事項を分けた上で、企業が次に取るべき行動を整理します。
今回決まったこと
ファーム供給のSACを14センに引き下げる
マレーシアのエネルギー移行・水資源変革省(Ministry of Energy Transition and Water Transformation、PETRA)は、CRESS Acceleration Packageを導入し、ファーム供給に適用するSACを1kWh当たり14センとすると発表しました。
SACは、再生可能エネルギー発電事業者(Renewable Energy Developer、RED)が、マレー半島の電力系統と関連サービスを利用してGreen Consumer(グリーン需要家、GC)へ電気を届けるために負担する料金です。
Energy Commissionの現行CRESSガイドラインでは、Single Buyerが、REDから系統へ輸出された電力量に基づいてSACを請求・回収すると定めています。
2025年8月の政府発表では、CRESSのSACはファーム供給が20セン/kWh、ノンファーム供給が40セン/kWhとされていました。
この20センと比べると、今回の14センは6セン、率にして30%低い水準になります。
ただし、この差分及び率はいずれの政府発表にも記載がなく、公表された両時点の単価から計算したものです。
ただし、14センはREDに課されるSACの水準です。
GCが最終的に享受する値下げ幅は、Bilateral Energy Supply Contract(相対電力供給契約、BESC)の価格構造、SACの転嫁方法、蓄電池等の追加コストなどによって変わります。
企業需要家の購入価格が自動的に6セン/kWh下がると断定することはできません。
10年の契約期間を軸とする
PETRAは、CRESS全体の強化策として、REDとGCの契約について最低10年の契約期間を設定する方針を示しました。
同じ発表は、アクセラレーションパッケージについても、REDとGCの間で10年の契約期間を適用するとしています。
もっとも、Energy Commissionのウェブサイトに現在も掲載されているFAQは、BESCに最低期間はないと回答しています。
これは9月18日のPETRA発表より前の制度内容を前提とする回答が更新されていない可能性があります。
したがって、最低10年という方針は最新の政府発表として重視すべきですが、その法的・実務的な適用範囲は、改訂ガイドライン又はアクセラレーションパッケージの実施資料で確認する必要があります。
なお、同じFAQは、発電ライセンスについては最低21年の期間が必要であるとも述べています。
発電ライセンスの期間とGCとの契約期間に差がある以上、契約期間満了後の販売先と調達先をどう確保するかは、当事者双方にとって早い段階から検討すべき事項になると考えられます。
この長期化は、収入と購入需要の見通しを安定させ、プロジェクトファイナンスを組みやすくする方向に働くと考えられます。
一方、需要家側には、工場の移転・縮小、電力需要の変動、企業再編、信用力の変化が生じても契約関係が続くというリスクがあります。
したがって、契約期間だけでなく、最低購入量、需要未達時の扱い、中途解約、契約譲渡、支配権変更、信用補完などを一体として検討する必要があります。
2028年末までの商用運転開始が必要になる
14センの適用を希望するプロジェクトは、2028年12月31日までにCommercial Operation Date(商用運転開始日、COD)を迎えることが必要です。
期限までにCODを達成できない場合、アクセラレーションパッケージの適格性は取り消され、その時点で適用されるSACと条件に切り替わります。
PETRAは、COD期限の延長申請は考慮しないと明記しています。
既にSingle Buyerへ登録しているRED・GCだけでなく、今後新たに参加するRED・GCも、所定の条件を満たす準備ができていれば対象になり得ます。
このため、2028年末は単なる努力目標ではありません。
土地、許認可、系統解析、接続工事、資金調達、EPC契約、機器調達、試運転などのどこかが遅れた場合に、誰がSAC差額を負担するかが重要な契約論点になります。
「ファーム供給」とは何か
14センの対象を「太陽光+BESS」とだけ説明しない
PETRAの発表が14センの対象としているのは、ファーム供給です。
現行CRESSガイドラインは、Firm Outputを「dispatchable energy output」、すなわち系統運用者が指令可能な電力出力と定義しています。
太陽光発電のような変動電源をファーム化する代表的な手段が、Battery Energy Storage System(蓄電池電力貯蔵システム、BESS)です。
しかし、制度上の対象をすべて「太陽光+BESS」と言い切るのは正確ではありません。
バイオマス及びバイオガスなど、電源自体に調整可能性がある再エネ技術も考えられるためです。
他方、太陽光プロジェクトがファーム供給を目指す場合には、BESS要件が極めて重要です。
現行ガイドラインは、発電設備がファーム出力要件を満たせない場合、REDが直接接続された蓄電システムを整備し、その出力容量を登録容量又は商用運転前の試験容量の低い方の50%以上、かつ連続4時間とし、Grid System Operator(系統運用者、GSO)の指令対象とすることを定めています。
蓄電設備が計画停止又は計画外停止で利用できない場合には、ノンファームSACが適用されるとも定められています。
もっとも、PETRAは、太陽光、BESS、firming capability及び系統接続に関する技術要件をEnergy Commissionが今後も精緻化するとしています。
したがって、既存ガイドラインのBESS構成を満たせば14センが当然に確定するとまではいえません。
技術要件と料金要件を同時に確認する
企業がREDから提案を受ける場合には、次の点を確認する必要があります。
- 提案される供給がファーム供給として扱われる法的・技術的根拠。
- BESSの出力、蓄電時間、設置場所、所有者及びGSOの指令権限。
- BESS停止中に適用されるSACと、その差額の負担者。
- 発電量・蓄電量・GCへの割当量をどのメーターで確認するか。
- 出力抑制、系統非常時、設備故障時の代替供給と料金精算。
単に「BESS併設」と記載された提案書だけでは、14センの適格性と長期の価格効果を判断できないと考えられます。
CRESSの契約構造を理解する
二者間PPAだけでは完結しない
CRESSは、REDとGCがBESCを締結すれば完結する制度ではありません。
現行CRESSガイドラインは、少なくとも5つの契約が関係すると整理しています。
- REDとGCのBilateral Energy Supply Contract。
- REDとGrid OwnerのRenewable Energy Supply Access Agreement。
- REDとSingle BuyerのNEDA Agreement。
- GCとElectricity Utility Company(電力供給会社、EUC)のCorporate Renewable Energy Supply Agreement。
- REDとEUCのBackfeed Agreement。
Single BuyerはBESCについて、CRESSガイドライン所定の事項に適合しているかを当事者の締結前に確認します。
また、EUCはGCへの最終保障供給者として、REDが発電・供給できない場合の電力供給を担います。
この構造では、発電設備の完成だけでなく、各契約の締結、NEDA登録、系統接続、試験・コミッショニングもCODまでの工程に影響します。
再エネ属性は契約で確認する
現行CRESSガイドラインでは、グリーン属性は原則としてREDに帰属し、BESCに従ってGCへ移転するとされています。
GCによるRenewable Energy Certificate(再生可能エネルギー証書、REC)の償却は、マレーシア国内で国際基準に従って行うものとされています。
したがって、再エネ電力を購入する契約だけで、企業のScope 2削減及びRE100対応に必要な環境価値が当然に確保されるとは限りません。
BESCでは、RECの発行、移転、費用、償却、二重計上の防止、未発行時の救済を確認する必要があります。
参加可能性を確認する際の注意点
需要家の「1MW・132kV以上」という整理は採用しない
民間の解説には、CRESSの需要家について「概ね1MW以上」「132kV以上」と説明するものもあります。
しかし、現行の一次資料から、その数値を一般的な参加要件として確認することはできませんでした。
Energy Commissionの現行ガイドラインは、GCについて、マレー半島のEUCに登録されたMedium Voltage又はHigh Voltageの需要家であることを求めています。
一方、30MW以上という基準は、Green Energy Plant(グリーン発電設備、GEP)側に適用される要件です。
同ガイドラインは、REDについてマレー半島で事業を行い、少なくとも51%の現地資本を有することも求めています。
また、GEPの最大系統送出容量はPower System Study(系統解析、PSS)の結果により決まります。
これらは2026年9月29日時点の現行ガイドラインに基づく整理です。
アクセラレーションパッケージの詳細化に伴い、参加・技術要件が更新される可能性があります。
まだ決まっていないこと
14センがどの期間固定されるか
PETRAは、14センのSACと10年の契約期間を発表し、長期的なコストの予見可能性を高めると説明しています。
しかし、発表文だけでは、14センがBESCの全期間を通じて固定されるのか、いつから適用されるのか、契約更新・設備停止・出力区分変更の場合にどう扱われるのかまでは明らかではありません。
現行ガイドラインは、通常のSACについて、Incentive Based Regulation(インセンティブ規制、IBR)の規制期間に合わせて3年間固定し、新たな規制期間の開始時に限り、従前料金から最大15%の範囲で改定する仕組みを定めています。
これに対し、20センから14センへの引下げは30%であり、通常の料金改定とは別のアクセラレーションパッケージとして公表されています。
そのため、14センと通常のSAC見直しルールとの関係は、今後のEnergy Commissionの詳細資料で確認すべき事項です。
申請手続の細部
Energy CommissionのCRESSページには、SAC、アクセラレーションパッケージ向けのSAC、通常のCRESS申請、PSS及び技術資料へのリンクが掲載されています。
一方、2026年9月29日時点でも、CRESS Acceleration Package Application Processの資料は「To Be Updated Soon」と表示されています。
PETRA自身も、パッケージの詳細はEnergy Commissionが提供するとしています。
したがって、現段階では、通常のCRESS申請フローを参考にしつつ、アクセラレーションパッケージ固有の申請時期、必要書類、適格性確認、14センの適用開始時点を推測で補わない方が安全です。
企業が今から取るべきアクション
自社需要と候補拠点を整理する
まず、マレー半島にある各拠点について、受電電圧、年間使用電力量、最大需要電力、操業期間、現在のTNB契約、屋上太陽光等の既存設備を整理します。
中圧・高圧需要家に該当するかも確認します。
REDの提案を同じ条件で比較する
提示単価だけでなく、発電技術、設備容量、ファーム・ノンファーム区分、BESS仕様、想定COD、系統接続地点、PSSの進捗、許認可・土地・資金調達の状況を比較します。
PETRAによれば、CRESSでは2024年の導入以降、11のREDと8のGCがSingle Buyerに登録し、登録プロジェクト容量は合計3,148MWです。
ただし、この3,148MWは登録プロジェクトの容量であり、既に商用運転している容量を意味するものではありません。
2028年末から逆算した工程表を作る
COD期限から逆算して、PSS、土地、許認可、ライセンス、系統接続、BESCその他契約、融資、EPC、BESS調達、試運転のクリティカルパスを確認します。
Energy Commissionは、通常のCRESSについて、登録申請から必要な契約の締結完了まで、発電所及び接続設備の開発期間に入る前の段階だけでも約10~12か月を要するとの目安を示しています。
個別案件ではさらに、発電所・接続設備の建設、機器調達、試運転等の期間が必要になります。
したがって、2028年末のCODから逆算すると、候補案件の成熟度を早い段階で確認する必要があります。
Single Buyerが作成しEnergy Commissionが掲載するCRESSの申請フローには、登録、Power System Study、接続の検証、NEDA CRESS Deed of Accession、Renewable Energy Supply Access Agreementほか各契約の締結、発電ライセンスの申請、設備開発と試運転、Commissioning Test Certificateの取得までが工程として示されています。
同資料によれば、発電ライセンスの申請はCOD予定日の3か月前とされていますので、逆算にあたってはこの点も織り込む必要があります。
もっとも、アクセラレーションパッケージ専用フローは更新待ちであるため、通常フローとの差分をEnergy Commission又はSingle Buyerに確認する必要があります。
BESCに期限未達と料金変更のリスクを落とし込む
BESCでは、少なくとも次の事項を検討すべきです。
- CODの定義、前提条件、最終期限及び進捗報告。
- RED・GC・系統側の遅延原因の切り分け。
- 14センの適格性を失った場合のSAC差額の負担。
- BESS停止又はファーム要件未達時の料金変更。
- 長期停止、出力抑制、不可抗力及び法令変更。
- 最低購入量、未達量、余剰電力及び代替供給。
- RECその他グリーン属性の発行・移転・償却。
- 中途解約、契約譲渡、支配権変更及び信用補完。
契約書に「SACは実費負担」とだけ書くと、どの制度変更を誰が負担するのかが不明確になる可能性があります。
基準料金、優遇料金、適格性喪失、将来改定を分けて規定することが重要だと考えられます。
他の再エネ調達方法と比較する
CRESSは、系統を通じて特定のREDから物理的にグリーン電力を調達できる点に特徴があります。
もっとも、企業の目的がScope 2削減、コスト削減、価格安定、追加性の確保のどれにあるかによって、屋上太陽光、Green Electricity Tariff、REC調達などとの比較結果は変わります。
一つの制度に決めてから契約条件を検討するのではなく、自社の目的、調達量、拠点条件、契約期間及び環境価値の要件を先に定めることが重要です。
まとめ
マレーシア政府が発表したCRESS Acceleration Packageは、ファーム供給のSACを1kWh当たり14センとし、2028年末までのCODを求めるものです。
20センから14センへの引下げは、CRESSプロジェクトの経済性を改善する可能性があります。
一方、企業需要家の最終的な調達コストが自動的に6セン下がるわけではありません。
BESS等の設備費、BESC上の価格構造、ファーム供給の適格性、COD遅延、SACの将来改定、RECの移転を含めて評価する必要があります。
特に現時点では、14センの適用期間、通常のSAC見直しルールとの関係、アクセラレーションパッケージ固有の申請手続などに未確定部分が残っています。
まず自社需要を整理し、REDから技術・契約・工程の資料を取り寄せ、2028年末から逆算した実行可能性を確認することが現実的な第一歩だと考えています。
※本稿は2026年9月29日時点で公表されているPETRA、Energy Commission及びSingle Buyerの資料に基づく一般的な整理です。アクセラレーションパッケージの詳細資料又はCRESSガイドラインが更新された場合には、最新資料による再確認が必要です。
